転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「……おい、どうするユリシーズ。俺、狼に勝てる自信、正直ないんだけど」
何か作戦はあるのか――俺はそう言いかけた。
けれどそれより先に、ユリシーズが俺の顔を凝視して――。
「構えて、アレク」
「……えっ?」
「剣を構えるんだ。――忘れたの? 君の剣は聖剣だ」
「――あ」
瞬間、俺はようやく思い出す。
そうだ、俺の腰にぶら下がるこれは、大神官サミュエルに賜った聖剣だった。
――それは王都を出発する前日のこと。
俺はサミュエルに呼び出され、一振りの剣を渡された。
そしてこんなことを言われた。
「アレク、お前も知っているだろう。魔物を倒すには魔力が不可欠だ。普通の剣ではかすり傷を負わせるのがやっと。つまり、魔法の才のないお前には魔物を倒すことはできない。が、流石にそれでは不憫だからな。俺の剣を貸してやる。――何、心配するな。属性魔法の使えないお前なら、この剣に込められた俺の光魔力に拒否反応を起こすことはないだろう。まぁ、とは言えこれが使えるのは、溜めた魔力が切れるまでの間だけだがな」――と。
それが俺が今持っている聖剣、”X”。サミュエルが二十四番目に作った聖剣――Xだ。
――正直俺は今の今まで、(サミュエルのあまりのネーミングセンスの悪さに)これが聖剣であることをすっかり忘れていた。
が、これは確かに聖剣であるはずなのだ。
相手が魔物であれば、剣先が触れるだけで倒してしまえるという、サミュエルの魔力がたっぷり注ぎ込まれたチートな剣。
ユリシーズは、それを使えと言っている。
「そうだったな、ユリシーズ。これは聖剣。つまり、魔物を倒すのは俺の役目だ」
「うん。……ごめんね、アレク。本当はあまり使わせたくないんだけど、実は僕、攻撃魔法のコントロールには自信がなくて……。その代わり防御は任せてほしい。君に傷一つつけさせやしないから」
「ああ、頼りにしてる、ユリシーズ」
こうして俺は覚悟を決め、聖剣の力とユリシーズの防御を頼りに、グレイウルフに突っ込んでいった。
戦いは混戦を極めた。
グレイウルフはとても素速い上に、視界はあまりに不明瞭で、なかなか攻撃を当てることができなかったからだ。
それでも俺たちは、十五分かけてなんとか全てを倒しきり――さらに瘴気の濃い方角――リリアーナとセシルのもとへ向かったのだった。