転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

8.一件落着?

「リリアーナ! セシル! 聞こえたら返事をしろ!」

 俺とユリシーズは、二人の名前を呼びながら先へと進んだ。
 時折現れる小型の魔物を倒しながら、段々と濃くなる瘴気の中を、先へ――先へと。
 
 もうどれだけ走ったかわからない。どこに向かっているのかもわからない。
 だが瘴気が晴れていないということは、リリアーナは瘴気を浄化しきれていないということ。
 それだけは、確かだった。

「どこだ、リリアーナ……!」

 俺たちはひた走る。
 リリアーナとセシルの無事を祈り、ただひたすらに走り続けた。

 そして、ついに――。


「――アレク、見て! 瘴気が……!」


 ユリシーズの声に目を凝らすと、前方の瘴気がやや薄まっていることに気付く。

 ――そこは湖だった。木々の間にぽっかりと浮かぶ、灰色の湖。
 おそらく元々は青かった水が、瘴気に侵され灰色に変化したのだろう。

 その証拠に、湖の左側に白い光が見え、そこから水が徐々に青く戻っていく様子がわかる。
 白く輝く光――それはまるで子守唄のように、優しく、温かい、全てを包み込むような光だ。

「――っ」

 その色に、俺は確信した。
 間違いない、リリアーナだ。あれはリリアーナの放つ聖なる光。
 

「急ごう! ユリシーズ!」
「ああ!」

 俺たちは一層足を速める。
 そしてようやく二人の姿を視界に捕らえた。

 湖の水面に両手を当て聖魔法を発動させているリリアーナと、そんなリリアーナの背中を、水魔法で懸命に守るセシルの姿を――。



 ――だが、そのときだった。


「アレク! グレイウルフがまた……!」

 叫ぶと同時に、ユリシーズが湖の向こう側を指差す。
 すると、そこには確かに一頭のグレイウルフがいた。
 しかもそいつは、セシルに向かって猛進している。

 俺たちが先ほど倒した奴らに比べ、二回りも大きな個体が、セシルとリリアーナへ向かっているのだ。

「なんだよあの大きさは……!」

 もしかしなくても、あれが群れのリーダーだろうか。

 体長は二メートル超え。体重もかなりのものだろう。足もさっきの奴らより速い。
 セシルの体格では体当たりだけでも致命傷だ。
 それにセシルは今、鳥類らしき魔物に攻撃魔法を飛ばしている最中で、グレイウルフの存在に気付いていない。

「――セシル! 右だッ! グレイウルフがいるぞ!」
< 36 / 148 >

この作品をシェア

pagetop