転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 俺はその場で足を踏みしめ、聖剣を引き抜いた。
 身体の重心を右足に移動しながら、左足を上げて大きく振りかぶる。

 そしてグレイウルフへ向け――全力で聖剣をぶん投げた。

「ッラァアアアアアッ!!!!」

 掛け声と共に、聖剣が俺の手を離れ地面とほぼ水平に飛んでいく。
 遮るもの一つない湖のほとりを、風を切って一直線に――。

 そして次の瞬間、セシルまで残り二メートルというところまで迫ったグレイウルフの喉元を、聖剣が貫いた。
 と同時に、聖剣の勢いがグレイウルフの速度を殺し、セシルは間一髪のところでグレイウルフの巨体を()ける。

 地面に転がったグレイウルフは、すぐに動かなくなった。

 俺の投げた聖剣が、グレイウルフを仕留めたのだ。


「――は」


 それは奇跡と呼ぶしかない瞬間だった。
 分の悪い賭けに、運のみで勝利した気分だった。


 すっかり気が抜けてしまった俺は、その場で地面にへたり込む。

(マジで……当たった……)

 いや、確かに当てる気でいた。当てる気ではいたけれど……本当に当たるとは。
 正直、自分が一番信じられない。――けど……。


「良かった……」


 セシルが怪我をしなくて良かった。
 誰も死ななくて……本当に良かった。


「はぁー。……いや、もう……ほんと……」

(初っ端からこんなの、勘弁してくれ……)
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