転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 旅はまだ始まったばかり。まだ何一つ終わっていない。それどころか、シナリオ的にはまだ序盤の序盤だろう。
 というのに、既に何度も死を覚悟する状況に陥って……。

 正直もう沢山だ。できるなら今すぐ帰りたい。
 そんな本音が、思わず口から零れてしまいそうになる。

 だが……。
 そんな俺の背中を、ユリシーズが支えてくれる。

「アレク、今の凄かったよ。まさか聖剣を投げるなんて……正直言いたいことは沢山あるけど、でも、凄かった」

 その声に顔を上げると、ユリシーズは困ったように笑っていて。

「ほんと、最近のアレクには驚かされてばっかりだ。――いろんな意味でね」
「それは褒めてるのか?」
「どうかな。僕にもよくわからない。でも、多分いい意味だよ」
「……そーかよ」

 俺はユリシーズの手を借り、ようやく立ち上がる。
 そして、光の戻りつつある空を見上げた。

 徐々に瘴気が薄まっている。リリアーナの浄化が進んでいるのだろう。
 グレンもいつの間にかセシルに合流しているし、もう心配いらない。


 ――心配は…………。



「……………………」
「アレク? どうかした?」
「――あ……いや……。……ちょっと…………肩が……」
「肩? 肩がどうかしたの?」
「えーと……つまり、なんていうか……外れたっぽい、関節」
「ええっ!?」
「準備運動なしで振り抜いたからなー」

 冗談交じりに笑うと、ユリシーズは「笑いごとじゃない」と俺を叱り、リリアーナのところへ走っていった。

 
 俺はそんなユリシーズの背中を見つめ、ひとり大きく息を吐く。

 本来ユリシーズは、ここにいるはずの人間ではなかった。
 俺の我が儘で連れてきたようなものだ。

 それなのに、ユリシーズは最善を尽くしてくれた。
 狼に恐れ(おのの)く俺を、冷静に諭してくれた。

 そんなユリシーズに、俺も答えなければ。一刻も早く戦う(すべ)を覚えなければと――そう決意を固める。



 ――が、その五分後。

 残念なことに、俺の決意は早くも崩れ去った。
 リリアーナが魔力切れを起こし、俺の肩を治せないことが判明したのだ。
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