転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「申し訳ありません、お兄さま。わたし、瘴気の浄化に魔力を使い果たしてしまって……」
すっかり瘴気の晴れた湖のほとり、晴れ渡る空の下で、今にも泣きだしそうなリリアーナ。
そんな妹を、俺は必死でなだめていた。
「いや、大丈夫、本当に大丈夫だから。これぐらい何ともない、そもそも怪我をした俺が悪いわけで、リリアーナは何一つ悪くないからな?」
「でも、わたしとセシル様を助けるためにした怪我なのに……わたし、やっぱり一度試して……」
「いや、駄目だ! それだけは絶対に駄目! それ以上魔力を使ったらお前が倒れる! ――だったよな、セシル?」
俺が同意を求めると、難しい顔で頷くセシル。
「アレクの言う通りだ、リリアーナ。君は魔力を使いすぎた。回復するまで少なくとも三日は魔法を使わないようにするべきだ」
「そんな……それでは、お兄さまは三日間も痛みに苦しまねばなりませんの?」
「まぁ、そうなるな」
「そんな! 酷いですわ、セシル様……!」
“酷い”――そう言われたセシルは、ショックを受けた顔をする。
するとそれを見かねたのか、グレンが小さく息を吐いた。
「肩なら俺が治してやる。関節を入れるだけなら、騎士団にいたとき何度かやったからな」
「……! 本当か!?」
「ああ。だが、関節を入れたからといってすぐに使えるようにはならんぞ。しばらくは安静が必要だ」
「それはわかってる。とにかく入れてくれ。このままじゃ聖剣の回収もできない」
「はぁ――まったく。聖剣を投げるなどと罰当たりなことをするからだ。しっかり反省しろ。――じゃ、入れるぞ。歯を食いしばれ」
「はっ……!? そんな急に――ッて、痛っ! 痛いって! もっと優しく……ッ! 痛ッてえええええッ!」
――と、そんなこんなで瘴気は無事浄化し終えたものの、俺の右腕はリリアーナの魔力が回復するまでの三日間、使用不能なことが確定したのだった。