転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「それはね、この街が城塞都市である前に、鉱山の街だからだよ。この国に流通してる金属のうち、七割はここで採掘されているんだ。金、銀、銅……鉄にスズや亜鉛、それに、宝石も。つまり、武器や防具、生活に必要な金物、貴族向けの装飾品、ありとあらゆるものがこの場所で生まれてる。経済が潤っているってことだ」
ユリシーズの言葉に、グレンも続ける。
「軍の駐屯地もあるからな。国から金も流れてくる。標高が高いせいで運河から水を引けないのが難点だが――まぁそれを除けば暮らすのには困らない。俺も訓練生時代ここに配属されていたが、戦時下でもなければ住みやすくていい街だ」
「へえ。……ってか、グレンここに住んでたのか」
「半年間だけだがな。――じゃ、俺は少し出てくる」
「え? 出掛けるのか? セシルの護衛は?」
「この街は安全だ。問題ない」
椅子から立ち上がるグレンに、セシルはにこりと微笑む。
「行き先は例の鍛冶屋だろう? いいものが見つかるといいね」
「ああ。夕方までには戻る」
そう言い残し、グレンはひとり出掛けていった。
グレンの背中が見えなくなると、今度はセシルが立ち上がる。
そしてとんでもないことを言い出した。
「ねえ、リリアーナ。せっかくだから僕たちも出かけない? 二人で」――と。
俺の目の前で、何の躊躇いもなくリリアーナを誘ったのだ。
――そんなセシルの態度に驚く俺。
いや、多分リリアーナも驚いていると思うが、絶対に俺の方が驚いている。
「えっ? 待て待て待て。何で二人? 四人で行けばいいだろ!?」
確かに俺はセシルにリリアーナを口説く許可を与えた。が、だからといって出会って一週間の男女を二人きりにするなど……言語道断。
だがセシルは、俺の反論を笑顔で受け流す。
「でもアレクは怪我をしてるだろう。部屋でしっかり休んだ方がいい。――それともリリアーナは、僕と出掛けるのが嫌かい?」
そう言って、顔面偏差値八十超えの顔でリリアーナを見つめるのだ。
「おい、その聞き方は卑怯だぞセシル! だいたい、俺たちは瘴気を浄化するためにここに来たんだ! 遊んでる暇なんて――」