転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
俺は更なる反論を試みる――が、なぜかユリシーズに止められて。
「アレク、もうやめよう。見苦しいよ」
「なんでだよ!? 俺は間違ったことなんて一つも」
「そうじゃなくて。君には、リリアーナのあの顔が見えないの?」
「……あの顔?」
――まさか。
そう思って恐る恐る視線を向けると、そこには頬を赤らめるリリアーナの姿があって。
(……いや、嘘だろ?)
だって出会ってまだ一週間だぞ? リリアーナの傍にはいつも俺が付いていたし、二人が親密になる暇なんてなかったはずだ。
それとも、俺の知らない間に何かイベント的なものが起こっていたのか? しかしそれにしたって、あまりにも展開が早すぎるんじゃないのか?
だいたい、リリアーナは昨夜まで俺にべったりだったじゃないか。
右腕が使えない俺の代わりに食事を口に運んでくれて――風呂の世話――は流石に断ったが、何かと世話を焼いてくれた。
それが一晩で……いったい何が起こったんだ?
そもそも乙女ゲームというのは、ヒロインが攻略対象者を攻略していくゲームだったはずだろう。
それなのに、これでは全くの逆じゃないか。誰が見たって、攻略されているのはセシルではなくリリアーナの方だ。
「…………」
言葉を無くした俺の前で、リリアーナは恥じらいながらセシルの手を取る。
そして、俺を見てこう言った。
「わたし、セシル様とお出かけしてきてもいいかしら? お兄さま」――と。
その恋する瞳に、俺はもう何も言えなくなる。
リリアーナとセシルの相思相愛っぷりに、どう反応したらいいかわからなくて……。
結局のところ俺は、「気を付けて行ってこいよ」と、そう答えるほかないのだった。