転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「――うっ」
そのときの記憶を思い出した俺は、吐き気をもよおしうずくまる。
いや、実際のところ、思い出すほどの記憶もないのだが。
妹を反対側の歩道へ突き飛ばした瞬間、ものすごい衝撃に襲われて、それ以降は何も覚えていないのだから。
「――ちょ、アレク、どうしたの!? 気分悪いの?」
「……ああ、悪い。ちょっと……」
ユリシーズの手を借りて、その辺の石垣に腰かける。
――ほんと、メンタルが弱すぎて自分でも嫌になる。
前世の妹とリリアーナは別人なのに、割り切れない自分自身が本当に情けない。
しばらく俺が自己嫌悪に陥っていると、不意にユリシーズが俺の左手を取った。
そして次の瞬間、俺の手のひらに一口サイズの氷ができあがる。
急にどうしたんだ――そう思って顔を上げると、申し訳なさそうな顔のユリシーズと目が合った。
「氷……少しは気分が良くなると思う。食べて」
そう言って、気まずそうに視線を逸らす。
「ユリシーズ? どうしたんだよ?」
「その……アレク、ごめん。僕、さっきは何も知らないって言ったけど、本当は知ってるんだ。昨日泊まった途中の宿で――君が眠ったあと、セシルがリリアーナを呼び出しているところに出くわして。心配で様子を見てたら、セシルがリリアーナに愛の告白を……」
「……なっ!」
「あっ、でも安心して! 君が心配するようなことは何もなかったんだ! セシルは、返事が欲しいとかじゃない。ただ僕の気持ちを知ってほしいだけだって……。それだけ言って、リリアーナを部屋まで送り届けていたよ」
「…………」
「だから僕、なんだか今日気まずくて……。知らないなんて嘘ついちゃった」
「……いや」