転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

11.不吉の前兆

 それから俺は、宣言通り露店で肉を食べ歩いた。
 鶏、豚、牛、それに鹿やウサギ。ありとあらゆる肉料理が売っていて、目につくもの全てに手を出した。
 途中ユリシーズに、「まだ食べるの?」「え、それも?」などと呆れ顔で言われたが気にしない。
 とにかく俺は食べまくった。

 そして日も傾きかけた頃、ようやく宿のある通りへと戻ってきた。


「いやー、どれも美味かったな」

 味は塩かハーブ漬けのシンプルなものばかりだったが、肉というだけでかなり満足だ。

 ――が、ユリシーズは俺の隣で非常に微妙な顔をしている。
 
「確かに美味しかったけど……僕はなんだか胃が重たいよ。君、ほんとに肉料理ばかり買うんだもの」
「そりゃ肉は美味いし。でも、お前は味見しかしてないだろ?」
「そうだけど。僕は肉より魚の方が好きだから……肉はしばらくはいらないかな」
「そうか。じゃあ魚も買えばよかったな」
「いや、そういうことじゃ……」
「ははっ、わかってるって。――付き合ってくれてありがとな、ユリシーズ」
「…………」
 
 実は俺も、ユリシーズがあまり肉を好まないことに途中で気付いていた。
 それでも肉を食べ続けたのは、まぁ率直に言って俺の好物だったからだが、それに加えて、ユリシーズに甘えたかったというのもある。

 エンドレスに肉を頼む俺に、うんざりした顔をしながらも付き合い続けてくれるユリシーズ。――その優しさに、俺は救われたかったんだ。
 
(いつかちゃんと恩返しをしないとな)

 そんなことを考えながら、俺は最後の角を曲がる。
 そして、宿の門が見えた――そのときだった。
 何の前触れもなく、ユリシーズが足を止めたのだ。


「……? どうした、ユリシーズ」

 靴ひもでも(ほど)けたか? そんなことを思いながら、俺は後ろを振り向く。
 すると俺の貧相な想像に反し、ユリシーズはいつになく神妙な顔をしていた。
 それはどこか思いつめたような……あるいは、何かを疑っているような……。
< 48 / 148 >

この作品をシェア

pagetop