転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「――え、伯父?」
(ノーザンバリー辺境伯が、ユリシーズの伯父だって?)
茫然とする俺に、ユリシーズは困ったように眉尻を下げる。
「そうだよ。ノーザンバリー辺境伯は僕の母方の伯父。知らなかった?」
「…………いや、それは」
(聞いてない)
俺はそう言いかけた。
が、それを言ったらいけないということだけはわかった。
ユリシーズの俺を見る瞳が、“本当に知らないの?”と、そう言っていたからだ。
(何だ? どうしてユリシーズは……こんな顔を……)
そう考えて、理解する。
俺は知っていなければならなかったんだ、と。
ノーザンバリー辺境伯がユリシーズの伯父であることを、アレクなら知らないはすがない――そういうことなのだろうと。
だが、そんなの今さらだろう。
本来のアレクなら知っているはずのことを、今の俺は知らない――そういう状況はこれまで何度だってあったはずだ。
それなのに、どうして今さらそんな顔するんだよ。
「…………」
無言になった俺を残し、ユリシーズは馬車から降りてきた辺境伯へ駆け寄っていく。
ユリシーズとは少しも似ていない、まるで軍人のような体つきをした貫禄ある伯父さんと、ユリシーズは抱擁する。