転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「ユリシーズ! すっかり見違えたな、別人かと思ったぞ! 会うのは二年……いや三年ぶりか!?」
「五年です、伯父上」
「なんと、五年か! 月日が経つのは早いものだな!」
「本当に。ところで、伯父上はなぜこちらに?」
「おお、そうだった。実はソフィーから連絡を貰ってな。お前の世話をしてやってくれと」
「母上が……」
「ああ。そろそろ着くころかと思っていたら、先ほど我が家に出入りしている商隊からお前たちのことを聞きつけてな、こうして急ぎ駆け付けたというわけだ! いやあ、会えて良かった! 広い街だからな。領主と言えど全てを把握してはおられんと言うに――そう言えばあれは昔からお前に対しては特に過保護だったが――」
ノーザンバリー辺境伯は快活な人だった。
歳は四十半ばから五十といったところか。声が大きく、よく笑い、よく話し、ジェスチャーがやたら大袈裟な人。
これは貴族にはありがちだが、実は舞台俳優なのではと思えるほど、ときおり芝居がかった話し方をする。
「ところで――御父上は息災か?」
「ええ。相変わらずですよ」
「そうか。――ふむ。それは喜ぶべきなのか、はたまた悲しむべきなのか」
「伯父上、冗談でもそれは」
「はっはっは! 冗談に決まっておろう!」
辺境伯は声を上げて笑い――そして俺の方を向くと、改めて自己紹介をしてくれた。
「挨拶が遅れてすまないな。私はルシウス・マーティンだ。四代前からこの地、ノーザンバリーを治めている。見ての通りユリシーズの伯父だ。……君は」
「あ――、私はアレクと申します。ローズベリー家長子、アレク・ローズベリーです。以後お見知りおきを」
ややテンパりながら答えると、辺境伯は目を大きく見開いた。
と同時に彼の太い腕が伸びてきて、その手が俺の左肩に降りてくる。「おお、そうかそうか、君がアレクか!」――と満面の笑みを浮かべながら。
どうやら彼は俺のことを知っているようだ。
先ほどのユリシーズとの話を加味するに、ユリシーズの母親から俺のことを聞いていたとか、そういうことなのだろう。
いったいどんな風に伝わっているんだろうか――そう思ったのも束の間、突然声色を変える辺境伯。
明るく朗らかだったトーンが、急に威圧的なものに変わる――。
「――ところでユリシーズ、セシル殿下はどちらにいらっしゃる?」――と。