転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
そう尋ねた声は、明らかに先ほどまでとは別人だった。まるで獲物を狙う鷲のような目をしていた。
だがユリシーズはほんの少し眉を動かすのみで、冷静に問い返す。
「なぜそんなことを聞くのです?」
すると、ユリシーズに何かを耳打ちする辺境伯。――同時に、今度こそユリシーズの顔が険しくなる。
「それは本当なのですか!?」
「私は領主だぞ。嘘だと思うか?」
「……いえ。そもそも、そんな嘘をついたって伯父上には何の利もありませんから」
「その通りだ。そういうわけだから、お前たちには一刻も早く我が屋敷に来てもらわねばならん。――が、こちらも準備がいるのでな。明朝馬車を寄こすからそれまでに準備をしておけ」
「…………」
「本来ならば私自らお伝えせねばならないことだが、何せ時間がない。殿下にはお前から申し伝えよ。――よいな?」
「……はい、伯父上」
――こうして俺は、何一つ現状を把握できないまま辺境伯の馬車を見送った。
が、その馬車が見えなくなると、途端にユリシーズに腕を掴まれる。
引きずられるようにして宿屋の階段を駆け上がり、そのまま部屋になだれ込んだ。
「……ユ、ユリシーズ……? いったいどうしたんだよ。伯父さん……何だって?」
俺の左腕を掴むユリシーズの腕が、酷く震えている。
よほど恐ろしいことを言われたのだろうか。
そう思った矢先、ユリシーズから出た言葉――それは……。
「死んだって……」
「……え?」
「鉱山道に瘴気が充満して………人が亡くなったって……伯父上が……」
――全く考えもしなかった、死亡者発生の報告だった。