転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

12.俺とセシルの長い夜

 その後のことはよく覚えていない。

 気付いたときには俺はベッドの上にいて、茫然と白い天井を見上げていた。
 そしてそんな俺を、リリアーナが心配そうな顔で見下ろしていた。


「リリアーナ……なんで……」

 俺は眠っていたのか? ――そう思いながら呟くと、リリアーナはほっと安堵した顔を見せる。

「お話中にお倒れになったんですの。覚えておりませんか?」
「いや……覚えてない。倒れてどれくらい経った? 皆はどうしてる?」
「二十分ほどですわ。セシル様とグレン様は隣のお部屋で明日のことについて相談なさっております。ユリシーズ様は……外の空気を吸いにお出かけに」
「……そうか」

 カーテンの向こうが暗い。
 倒れて二十分と言うが、そもそも倒れる前にどれくらい話をしていたのか……時間の感覚がよくわからなくなっている。

 ――鉱山道で人が死んだ。
 そう聞かされてからの記憶が、かなり曖昧だ。

 瘴気は自然発生するものとは聞いていたが、それでも、もしかして俺のせいなのではないか、俺がシナリオを変えてしまった可能性はないか、一度そんな風に思ったら嫌な考えが止まらなくなって、気付いたら周りの声が聞こえなくなっていた。

 だが、それでもこれだけは覚えている。
 死んだのは一人や二人ではない。鉱山で働く大勢が犠牲になったと、ユリシーズは震える声でそう言った。

 ああ、それなのに――。

 俺はあのとき、ユリシーズに何も言ってあげられなかった。
 ユリシーズだって俺と同じくらいショックを受けていただろうに、俺はこんな情けない姿をさらすばかりで――。


 俺は身体を起こし、リリアーナに向き直る。

「なぁ、リリアーナ。聞いてもいいか?」
「はい、お兄さま」
「俺さ……知らなかったんだ。瘴気で人が死ぬだなんて……少しも知らなかった。お前は知ってたか? セシルから、何か聞いてたか?」

 俺が尋ねると、リリアーナは表情を固くして、ゆっくりと首を振る。「知らなかった」と。

「……だよな。知らないよな」
< 53 / 148 >

この作品をシェア

pagetop