転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
今の俺はあまりにも知らないことが多すぎる。
一通りは勉強したつもりでいたが、俺は瘴気で人が死ぬことも、この世界の情勢も知らなかった。
神殿と宮廷の関係性や、貴族たちの勢力図、魔法についてだってまだまだわからないことだらけ。こんな状態では、これから先事件が起こる度に後手後手に回ってしまうだろう。
(鉱山での瘴気発生が本当に自然現象なのか、それとも人為的なものなのか、今の俺では判断がつかない。それに――)
アレクがラスボスになってしまう理由も、今のままでは……。
――ならば、どうする?
そう考えた俺は、ベッドから降り、立ち上がる。
「ちょっと、セシルのところに行ってくる」
「え? でも、今日はもうお休みになられた方が……」
「いや、こういうのは思い立ったが吉日って言うからな」
「……?」
――このゲームのメインヒーロー、王太子セシル。
ここが一応でもゲームの世界であると言うのなら、そして今がセシルルートであると考えるなら、ラスボスであるアレクを殺すのはセシルの役目。
ならば、そいつを圧倒的味方につけるしかない。
もしもこれから先ゲームの強制力というのが働いて、俺がラスボスになりかけたき、それを止めるのはきっとセシルになるだろうから。
あるいは、俺がラスボスになるのが外的要因……例えば誰かに罪をなすりつけられるとかであるならば、俺がセシルの意図と外れた行動をしなければ避けられるはず。
――そのために、俺はもっとセシルについて知らなければならない。
そして、セシルにも俺という人間を知っておいてもらわねばならない。