転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
◇
俺とセシルは二人きりになる。
セシルはテーブルの上に広がっていた地図を畳み、俺に着席するよう勧めた。
「グレンは僕の前だと絶対に座らないからな。でも、君なら座ってくれるだろう?」
セシルの声は怖いほど穏やかだった。
まるで人が死んだことなんて聞かされていないかのような、落ち着き払った態度だった。
俺が椅子に座ると、セシルはやや首を傾げ、さっそく話を切り出す。
「それで? 話とは?」
「……ああ、それが――俺、セシルに教えてもらいたいことがあって」
「教え? 僕にか? ユリシーズじゃなく?」
セシルは意外そうな顔をした。
俺はわからないことがあるとユリシーズに尋ねるから、不思議に思うのは当然だ。
だが、これはセシルにしか答えられないことなのだ。
「ああ、セシルに尋ねたい。これはセシルにしか答えられない内容なんだ」
俺がそう言うと、セシルは驚いたように目を見開いた。
そして数秒間何かを考える素振りを見せ、口を開く。
「わかった。とりあえず聞こうか。内容は?」
いつになく真面目な顔をして、俺を見つめるセシルの瞳。
その目をまっすぐに見据え、俺はセシルに問いかける。
「俺は、セシルが今考えていることを知りたい。今回鉱山に発生した瘴気について、どう考えているのか。辺境伯の屋敷に招かれることについてどう思っているのか。――それだけじゃない。ここ一年で瘴気の発生が十倍にも増えていることについて……セシルは、どう考えてる?」
俺が知りたいこと。
それは、セシルが今何を見て、何を考えているのかということ。
今の状況について、政治的なあれこれをひっくるめて、何に注意してどう行動するべきなのかということ。
だが、セシルはすぐには答えなかった。
セシルは俺の問いにピクリと眉を震わせて以降、しばらく黙り込んでいた。
そうして長い沈黙の後、ようやく唇を開く。
「なぜ、そんなことを知りたがる?」――と。