転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
その言葉に、俺は一つの確信を得た。
俺の質問は、セシルにとって意味のある内容なのだということ。
少なくとも、簡単に答えられる内容ではないのだということ。
だが、だからこそ意味があるんだ。
今の俺に、この世界の情報を一つ一つ確認している時間的余裕はない。
ならば、セシルがいったい何を考えているのか、それを知ることが、この世界を理解するための近道になるはず。俺はそう考えた。
――だから。
「それは俺がこの世界について何も知らないからだ。二ヵ月前の馬車の事故で、俺は記憶の殆どを失った。自分のことだってよくわからない。瘴気や魔物、政治や経済についてなんて尚更だ」
「確かに……君の記憶のことならリリアーナから聞いている。だが、それと今の質問にどう関係がある?」
「関係ならあるだろ。俺は何も知らないんだ。瘴気で人が死ぬことも知らなかった。目の前で何かが起きて、初めて知ることばかりなんだ。だから俺は知らなきゃならない。今俺たちがどういう状況に置かれているのか。それがどれくらい良くないことなのか。俺はちゃんと理解したいんだ」
俺は訴える。
セシルの見ている景色を俺にも見せてほしい、と。おこがましいことだとは理解しながら。
でも、やっぱりセシルは答えなくて。
「なるほど。君の言いたいことは理解したよ。だが、その問いの相手が僕である必要はないだろう? いつものようにユリシーズに尋ねればいいじゃないか。まして彼は君の友人で、僕よりずっと博識だ。それは君が一番よくわかっているんじゃないのか?」
そう言って、静かな瞳で俺を見据えるのだ。