転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 ――今俺たち二人が居るのは、俺の屋敷の図書室だ。伯爵家なだけあってそれなりの蔵書数があり、一通りの調べ物には事足りる。

 俺はその部屋の四角いテーブルに、ユリシーズと向かい合って座っていた。

 机の上には、俺がここ数日で読んだ本十数冊が山積みになっている。――が、この一週間、部屋の本を読み漁っても瘴気についての記述はほとんど見つけられなかった。
 一人で調べることに行き詰まりを感じた俺は、アレクの記憶の中の親友、ユリシーズを呼んだのだ。

 初等部(ジュニア)の頃から何かと行動を共にしてきたユリシーズ。
 特徴のない茶色(ブラウン)の髪と瞳をしているが、前世平たい顔族だった俺からすればこいつも十分イケメンの部類に入るだろう。 
 少々人見知りなところはあるけれど、穏やかで面倒見がよく真面目で几帳面。それでいて、大事なことはこうやってちゃんと口に出して言ってくれる。
 そういうところを、アレクはとても信頼していた。

 きっとユリシーズなら、俺の話を聞いてくれるだろう。――アレクの記憶を基にそう判断した俺は、ユリシーズに問いかける。

「ちょっと聞きたいんだけど……お前の知ってる俺って、どういう人間だった?」
「…………」

 するとユリシーズは困惑の色を強めた。――まぁ当然だろう。

「実は俺、二週間前の馬車の事故から記憶が曖昧なんだ。自分のことも家族のこともお前のことも忘れたわけじゃないんだけど……何ていうか、夢のことみたいに思えるっていうか……」
「――え? ……それ、本当?」
「本当だ。でも、それでも俺はちゃんと覚えてるんだ。ユリシーズ……お前は信頼できるって。だから俺はお前に相談しようと思った。――国境で発生した瘴気の浄化のためにリリアーナが神殿に召されることが決まって、でも、俺はどうしても一人で行かせたくなくて。だから父上に頼んだんだ。俺も一緒に行かせてくれって。それで……」
「ま――待って、アレク! 情報が多すぎて何が何だか……。――君は記憶が曖昧で……リリアーナが神殿に……? 瘴気の浄化? だから、この本の山……? しかも、君がそれに付いていく……今、そう言ったのか?」
「ああ、流石ユリシーズ。理解が早くて助かる」
「…………」

 俺の返答に、ごくりと息を呑むユリシーズ。
 流石に驚きを隠せないのか、彼はやや顔をしかめ、しばらくの間固まっていた。
 そして十秒ほど放心したあと、はあっ、と息を吐いて席を立つ。

「アレク。窓、開けるよ?」
「ああ」

 返事を返すとほぼ同時に、ユリシーズは窓を開けた。
 ややカビ臭かった部屋の空気が、外へ逃げていく。

 その後しばらくの間、ユリシーズは苦い顔で庭園を眺めていた。
 そんな彼の横顔を、俺は黙って見つめていた。
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