転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「まぁいい。話を戻そう。ユリシーズの言葉はさておき、外側は実際かなり危険な場所だ。そもそも瘴気というのはいつどこで発生するかわからない上、神官の数は限られている。そして当然のことだが、神官はここノーザンバリーのような貴族の住まう街を優先して守ることになる。――となると、それ以外の場所はどうしたって手薄になるだろう? それはつまり、瘴気発生の報告を受けた神官が現地に向かい、浄化を終えるまで短くない時間を要するということだ。だからこの国全体でいえば、瘴気の犠牲者は毎日のように出ているし、死者の報告も後を絶たない」
「……っ! でも、俺は瘴気で人が死んだなんて一度も聞いたことがない。記憶を失う前だって……多分、一度も」
俺は声を荒げる。
するとセシルは、悲し気に微笑んだ。
「それは当然だ。犠牲になるのは基本、貧しい村の者たちばかりだから。その者たちの死が、内側の人間に知らされることはない。まして僕らのような王侯貴族にはね」
「……ッ」
「今回の鉱山での犠牲者もほとんどは戦争捕虜だろう。つまり言い方は悪いが、辺境伯はきっと死んだ者には興味がない。僕らに助けを求める理由は、あくまで場所が悪かったというだけだろうな。――だが、僕はそう思っていない。それがたとえ戦争で殺し合った敵国の兵士だろうと、消えてもいい命だったとは、僕は決して思っていないよ」
そう言ったセシルの瞳は怖いほど真剣で。――俺は思わず、喉を鳴らした。
「ああ……当然だろ。失くなっていい命なんて、この世に一つだってありはしないんだ」
「……うん。ありがとう、アレク。貴族の君にそう言ってもらえると、僕も色々と心強いよ。――では、話を続けるが――」
――その後も俺はセシルと話を続けた。
話題は光魔法と聖魔法の瘴気に与える影響の違いから、宮廷と神殿の政治的なあれこれに至るまで。
途中からはグレンも加わって、この地域一帯と鉱山道の地図を叩きこまれた。
そして時計の針が真夜中を過ぎたころ、ようやく終わりを見せる。