転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「――とまぁ、これだけ知っていれば十分だと思うよ。グレンも、もういいだろう?」
「ああ。これだけわかれば、万一鉱山ではぐれても生きて戻ってこられるだろう」
「……怖いこと言うなよ」
正直、俺の頭はパンク寸前だった。自分から言い出したことだが、これ以上は何も覚えられそうにない。
だが、これで大分不安が解消された。モヤモヤしていたものが晴れた気がする。
その後セシルが解散を宣言し、俺は席を立った。
だが、部屋を出ようとしたところで不意に呼び止められる。
その声に振り向くと、セシルはどこか不安そうな顔をしていた。
「君に聞いておかねばならないことがあるのを、忘れていた」
「何だ?」
そう返すと、セシルは言いにくそうに口を開く。
「アレク……君は虚弱体質なのか?」――と。
「……え? 虚弱体質?」
「ああ。昨日の馬車酔いのときにも感じたが、ここのところ顔色が良くない。現に今日も倒れただろう。もとから身体が弱いのか?」
「いや……そんなはずは。覚えている限りは……馬車酔いも倒れるのも初めてだと思う」
「……そうか。いや……違うならいいんだ。でも、あまり無理はするなよ。リリアーナも心配する」
「……? ああ」
セシルにしては珍しく辛気臭い顔――そのことに俺は違和感を覚えたが、その気持ちは部屋に戻ったらすぐに忘れてしまった。
俺のベッドで、リリアーナがすやすやと眠っていたからだ。
着替えもすませていないところを見るに、きっと俺を待っていてくれたのだろう。
俺はリリアーナを抱き上げて、反対側のベッドに降ろす。
風邪をひかないように布団をかけ――リリアーナがこの世に生を受けて以来日課になっている――お休みのキスをした。
「リリアーナ。俺……頑張るから」
部屋の灯りを消し、自分のベッドに横になる。
そしていつの間にか、深い眠りに落ちていった。