転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 ◇


 セシルとグレンに続いて部屋に足を踏み入れた俺は、そのピリついた空気に思わず息を呑んだ。

 馬車を降りたときも感じたが、なんだか屋敷全体から物々しい雰囲気が漂っている。
 衛兵も多いし、まるでこの屋敷ごと戦場にいるかのようだ。

 現に、執務室の中には軍人が大勢いた。
 部屋の中央のテーブルに地図を広げ、ノーザンバリー辺境伯を中心に議論を交わしている。
 他にも役人や商人、神官の姿もあるが、一様に険しい表情をしているのは同じだ。

 ――俺たちに気付いた辺境伯が、椅子から立ち上がる。

「これはセシル殿下、わざわざご足労おかけし申し訳ない。何分(なにぶん)非常事態でしてな。ご無礼をお許しください」
「いや、構わないよ。大方のことはユリシーズから聞いている。鉱山で瘴気が発生し死者が出たとね」
「ええ、そうなのです。通常七名常駐している神官が二名しかいないことに加え、瘴気の濃度が濃く浄化が間に合わず……街に瘴気が及ぶのも時間の問題かと。ですからどうか、殿下と聖女さまのお力をお借りしたく――」
「もちろんだ。全ては我が国民のため。協力は惜しまない。それに、僕はそもそも瘴気の浄化のためにここにいる。――貴公(きこう)が陛下からどう聞いているかは知らないがな」

 セシルの声は落ち着いていた。表情も穏やかだった。

 けれど俺は気付いてしまった。
 ”陛下”――と口にした瞬間のセシルの目が、酷く冷めた色をしていたことに。
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