転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
――それからどれくらい経っただろうか。ユリシーズは外の景色を睨みつけたまま、口を開く。
「つまり君は、僕に協力を求めているってことだよね? 君とリリアーナの置かれている状況について、助言が欲しいって」
「ああ、そうだ」
俺が頷くと、ようやくこちらを向くユリシーズの顔。
そして、彼は頷いた。
「いいよ。本音では色々と言いたいことがあるけれど、君とリリアーナのためなら協力する」
「――! ありがとう、ユリシーズ!」
「お礼なんていらないよ。僕がしたくてするだけだから。あと、その瘴気の浄化、僕も一緒に行かせてもらうね」
「――んッ? 今、何て……」
「僕も一緒に行くって言ったんだよ、アレク。――言っておくけど今の君、かなり危なっかしいからね。以前の君ならともかく今の君じゃリリアーナを守れない。剣の腕は君の方が上だけど、魔法なら僕の方が上だ。記憶が曖昧な君よりはきっと役に立つ」
「…………」
「だから、君の方から話を通しておいてね。瘴気のことは僕が調べておいてあげるから」
「…………」
ユリシーズの圧のある物言いに、俺の頭の中が疑問でいっぱいになる。
(こいつ、どうして急にこんなに怒ってるんだ……?)
アレクの記憶の中のユリシーズは、普段はとても穏やかだか、ときおり怒るとこうしてやや口調がキツくなる。
つまり、今のこいつは怒っているということだ。理由はわからないけれど。
だが、ユリシーズの言うことはもっともだ。
今の俺にアレクとしての記憶があるとはいえ、魔物とちゃんと戦うことができるのか正直不安が大きい。
それに俺はもともとラスボスポジション。身に覚えがないのに瘴気は発生してしまっているし、一人でシナリオを変えられるのか怪しいところ。
でもユリシーズが協力してくれるなら……。
「わかった。俺の方こそ、お前が一緒だと心強いよ。よろしくな、ユリシーズ」
俺が右手を差し出すと、ユリシーズは一瞬驚いた顔をしてから、困ったように微笑んだ。
「うん。こちらこそよろしくね、アレク」
そして、俺の手をしっかりと握り返すユリシーズ。
――こうして俺は、図らずも信頼できる協力者を得ることができた。
リリアーナが神殿に召還されるまで、おそらく残り四ヵ月弱。
俺にできることは限られているけれど、協力してくれるユリシーズのためにもできる限りのことをしよう。
俺は再び、心にそう決めた。