転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

15.シナリオの外側

 坑道の入口は、乾いた山肌をしばらく進んだ先にあった。

 入口の道幅は六メートルを超え、天井も三メートル以上はある。想像よりもずっと立派だ。
 中に入ると、坑道には滑車を運ぶための線路が何本も敷かれ、ずっと先へと続いていた。
 
 灯りは火の魔法を使っているのだろうか。油もなさそうなのに、ゆらゆらと燃え続けている。
 瘴気のせいで視界は悪いが、これなら先に進むのに困ることはないだろう。

 そんなことを考える俺の前で、リリアーナとセシルは瘴気について確認している。

「リリアーナ、瘴気の発生源はこの奥からで間違いない?」
「おそらくは……。――あ、でも、奥……というよりは下かもしれませんわ。……わたしの魔法の範囲を考えると、ここからでは浄化しきれない気がします」
「そうか。では、やはり奥に進むしかないな。――グレン、魔物の気配は感じるか?」
「いや、この階には少なくとも大型はいないな。そもそもここは坑道だ。マリアも言っていたとおり、いるのは精々コウモリかネズミだろう。魔物化しようと大した相手ではない。――が」

 グレンは何か言いかけて、その辺に落ちていたランプを二つ拾い上げる。
 そして手際よく火をつけると、うち一つを俺に差し出した。

「念のために灯りは持っていた方がいいだろう。俺は先頭を行くから、お前は最後尾を歩け」
「俺が後ろ? 何で?」
「グレイウルフの森で、お前が聖剣を投げる瞬間を俺も見ていた。あの視界の悪さ、しかもあの速さで動く的に命中させるにはかなりの視力が必要だ。――が、お前は危なげもなく当ててみせた。お前の目は信用できる。剣の方は、まだまだ赤子同然だがな」
「……っ」

(嘘だろ。まさか、グレンが俺を褒めている……?)

 グレイウルフの森では"聖剣を投げるとは言語道断"だとこっぴどく叱られたのに、まさかこんなところでアメを与えてくるとは予想外にもほどがある。

 俺はグレンからランプを受け取り、強く握りしめる。

「おう……任せろ」

 正直、この暗がりで遠くの魔物に気付けるかと聞かれると全く自信はない。
 けれど、グレンにこんな風に言われるとやってやろうという気になってくるから不思議だ。

 俺が自分に気合いを入れている間、グレンはユリシーズにも指示を出す。

「ユリシーズ、お前はアレクのフォローだ。ここは坑道。今は道幅があるが、場所によっては横に二人並ぶのが精いっぱいのこともあるだろう。その場合、剣で戦うのは難しい。お前は攻撃魔法が苦手だと言ったが、この閉ざされた空間ならば早々(そうそう)避けられることはない。当たらなくとも最悪牽制になればいい。そのつもりで魔法を放て」
「……わかった」


 ――こうして俺たちは、先頭にグレン、その後ろにセシルとリリアーナ、そしてユリシーズと俺の順番で並ぶことに決まった。
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