転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
 ◇


 俺たちはグレンを先頭に、緩やかな下り坂を進んでいく。
 
 途中コウモリやネズミの魔物に遭遇したが、幸い数が少なかったため、そのすべてをグレンとセシルが倒してくれた。
 このままいけば俺とユリシーズの出番はないかもしれない――そう思うほど安全な道のりで、それはとても有難いことなのだが……。


 正直俺は、今とてもモヤモヤしていた。

 ――なぜかって?
 それは当然、リリアーナとセシルがピクニック気分で雑談を始めたから――というのもあるが、一番の理由はそうではなく、ユリシーズの様子がおかしいからである。


(何でこいつ、今日はこんなに静かなんだ?)

 ――そう。ユリシーズは今日、朝から殆ど喋っていないのだ。

 考えてみれば、朝のおはようの挨拶も、いつもならユリシーズからしてくるのに今日は俺からだった。
 しかも返事は「ああ、うん」の一言のみ。
  
 朝食のときもずっと静かで、話しかければ答えてくれるが、辺境伯の屋敷へ向かう馬車の中でもずっと無言。
 ここに来るまでのマリアとの会話も、いつもなら情報収集をするのはユリシーズの方なのに、まるで上の空という様子で……。
 それはこの坑道に入ってからも変わらない。
 それに一度も……俺の目を見ない。

 最初は、人が死んだと聞かされた昨日のショックが尾を引いているのかと思っていた。
 だが、それが理由なら俺に対してこんな態度は取らないはずだ。
 ――ということは、だ。

(もしかして……まだ怒ってるのか?)

 昨日露店を回ったあと、急に何か言いかけたアレ。
 正直内容に心当たりはないが、ユリシーズは一晩経った今も俺に怒っている……そういうことだろうか。

 それとも何か別の理由があるのか。
 たとえば、狭いところが怖いとか、暗いところが苦手だとか……。
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