転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

(――聞くべき、なのか?)

 だが、何と言えばいい?
 お前、俺に怒っているのか? とでも聞けばいいのか?
 でもそんなことを言って、"何か心当たりがあるのか"と聞き返されたりしたら困る。

 かといって、お前どうした元気ないな、怖いのか? と聞くのはあまりに無神経な気がするし、もし俺が原因だったとき、取り返しのつかないことになりそうな気がする。

(……くそ。マジでわからん)

 前世に俺の周りにいた奴らは、喧嘩と言えば取っ組み合いか怒鳴り合いで、その日その場で解決することの方が多かった。
 別に不良だとか喧嘩好きとかそういうことではないのだが、それでも、言いたいことはそのときに全て言ってしまえる――そういう体育会系脳筋バカ……もとい、素直な奴が多かった。
 少なくとも、ユリシーズのような真面目で優しいタイプはいなかったのだ。

「…………」

 聞くべきか。聞かざるべきか。

 俺はユリシーズの背中を見つめ、考える。
 ――が、数秒悩んで諦めた。

 俺にはこういう悩み方は性に合わない。
 考えたってユリシーズの考えなどわかるはずもないのだから、はっきり聞く以外の方法はない。

 俺は覚悟を決め、ユリシーズの背に問いかける。

「なぁ、ユリシーズ。今日のお前、ちょっと変じゃないか?」――と。

 すると、ユリシーズは不意に足を止めた。
 それにつられて、俺もその場に立ち止まる。

 だがユリシーズは何も答えない。――俺は再び問いかける。

「俺、お前に何かした? もしそうならはっきり言ってほしい。言ってくれなきゃ、俺はわからない」

 俺に背を向けたままのユリシーズ。
 その表情は、後ろにいる俺には伺い知れない。

 だがそれでも一つだけわかったことがある。
 ユリシーズの様子が変なのは、やはり俺が原因なのだ、と。
 そうでなければ、ユリシーズは否定するはずだから。

 ああ、それならば――。
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