転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「ユリシーズ、言えよ。何かあるならはっきり言え……!」
俺はユリシーズの肩を掴み、無理やりこちらを振り向かせた。
本当に、言ってくれなきゃわからない。
わからなければ謝ることだってできない。
でも、ユリシーズはやっぱり何も言わなくて。
俺が睨みつけても言いにくそうに視線を逸らすだけで……俺はこいつが何を考えているのか、益々わからなくなった。
「お前、黙ってたらなんもわかんねーんだよ! 言えよ! 気に入らないことがあるならはっきり言えッ!」
何も答えようとしないユリシーズに、俺の心に苛立ちが募る。
「お兄さま? どうされましたの?」というリリアーナの驚く声も、「喧嘩か?」と呟いたグレンの呆れた声も、全てが遠くに聞こえるくらい――俺の頭は煩わしさでいっぱいになって……。
――が、そのときだった。
突然、地面が波打つように大きく揺れ始めたのだ。
「――っ!?」
立っているのも難しいほどの縦揺れに、俺は壁にへばりつく。
囂々と低い地響きがして、壁や天井に亀裂が入る。
そして――。
「リリアーナ……ッ!」
俺は咄嗟にそう叫び、リリアーナに手を伸ばした。
悲鳴を上げて地面にうずくまるリリアーナを守らなければと、その一心で。
だが俺の手は虚しくも空をかき、それと同時に一気に崩れ落ちてくる天井。
スローモーションに見える景色の向こうで、リリアーナを守らんとするセシル。そしてそんな二人に覆いかぶさるグレンの頭上に、崩れた瓦礫が――。
それなのに俺は三人に近づくどころか、むしろ遠ざかっていて――。
(……あれ? なんで俺、後ろに飛んでるんだ?)
足が地面から浮いている。何かに吹き飛ばされたのか? でも、いったい何に……?
そう思って視線を下に向けると、そこには見たこともない必死の形相で俺に体当たりしているユリシーズの姿があって。
(ユリシーズ……? お前、どうして……)
リリアーナが目の前にいるってのに、どういうつもりで……。
そう思った瞬間、強い衝撃に襲われて――俺の意識は、そこで途切れた。