転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

「……くそッ!」

 これは本当に偶然か? それとも……必然か。

 そう考えた矢先、瓦礫の向こう側から聞こえてきた声に、俺の意識は現実へと引き戻された。


「アレク! ユリシーズ! 聞こえるか!? こっちは全員無事だ! お前たちに怪我はないか!?」
「……!」

 それはグレンの声だった。
 多少焦りを含んでいるが、いつもどおりのグレンの声。
 それに加えて、リリアーナの声も聞こえてくる。俺の安否を心配する、リリアーナの不安に満ちた声が……。

 俺がリリアーナの声に応えると、ほっとしたように声を柔らかくするリリアーナ。
 ――リリアーナ曰く、瓦礫の直撃を受ける直前、グレンが剣で瓦礫を防いでくれたとのことだった。

(流石グレンだ。……場数が違うな)

 シナリオどうこうは別として、俺は正直、天井が崩れた瞬間もう駄目だと思った。リリアーナも、セシルもグレンも……無事ではいられないと思ったのに……。

(やっぱり、グレンは凄いな)

 だがそう思った刹那、俺は再び我に返る。

 ――そう言えば俺はまだ、ユリシーズの無事を確認していない、と。




「……ユリシーズ?」

(何だか……嫌な予感がする)


 その理由はすぐにわかった。

 それはこの静けさのせいだ。こちら側にいるはずのユリシーズの声が、音が――何も聞こえないからだ。
 俺が目覚めてからずっと、俺の出す音意外、何一つ聞こえないからだ。


(まさか……)


 俺の心臓が鼓動を速める。
 絶対に違う、そんなはずはない――根拠のない信念にしがみつきながら、俺は恐る恐る背後を振り返った。

 するとそこにあったのは――瓦礫に埋もれ力なく横たわる、ユリシーズの姿。


「――ッ」


 ――ああ、嘘だ。
 
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