転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
俺の頭が真っ白になる。冷静でいられなくなる。
けれどそれでも、身体だけは反射的に動いた。
「ユリシーズッ!」
俺はユリシーズに駆け寄り、無我夢中で瓦礫をどける。
そしてユリシーズの身体を引きずり出し、脈と呼吸を確認した。
(大丈夫……脈はある。呼吸も正常だ。――だが)
「まずいだろ……これ……」
ユリシーズは頭から大量に出血していた。
落ちてきた瓦礫が直撃したのか、それとも倒れたときにぶつけたか、とにかく、頭からの出血で顔の半分が血に染まっている。決して放置していい状態ではない。
(せめて……止血だけでもしないと)
俺はユリシーズの頭を自分の膝に乗せ、傷口を心臓より高くする。と同時に、脱いだ上着を傷口に強く押し当てた。
だが傷が深いのか、血が止まる気配はない。
「ユリシーズ! ユリシーズ! 聞こえるか、ユリシーズ……!」
俺は何度もユリシーズの名前を呼んだ。
だがユリシーズは反応を示さず――押し当てた上着は、あっという間に血に染まっていく。
「くっそ! 止まんねぇじゃねーかッ! おい、聞こえてんだろ!? 返事しろよ、ユリシーズ!」
――ああ、もしもこの壁がなければ、ここにリリアーナがいれば、すぐにでも治してくれるのに。
「ユリシーズ! 起きろ! 目を覚ませ!」
完全に油断していた。
リリアーナがいるから、何かあっても大丈夫だと――俺は完全に油断していたんだ。
「起きろ……ッ! ユリシーズ! 返事をしてくれ、ユリシーズ……!」
――俺は知っていたはずなのに。
ここで天井が崩落することを、俺は確かに知っていたはずなのに。
ゲームのシナリオ通りなら誰も怪我なんてしないって、心のどこかで高を括っていた。
それは紛れもなく、俺の慢心だった。
たとえシナリオどおりであろうと、絶対に大丈夫だなんてこと、あるはずがないのに――。
「ユリシーズ! ――ユリシーズ……!」
つまりこれは、俺の甘さが招いた結果。
――全部、俺の…………俺の、せいだ。
「……ユリ……シーズ」
だが、俺が絶望しかけた――そのときだった。
ユリシーズの瞼が小さく震え……ゆっくりと開いたその瞳が……俺の姿を――捉えた。
「――っ」
――ああ……。