転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
――入口から崩落場所までにかかった時間はおよそ二十分。
だが、うち半分以上は魔物との戦闘に費やした。
ということは、実際に歩いた時間は長くて十分。歩行速度は分速八十メートル……だが、実際はもっと遅かっただろうし、立ち止まったりもした。それを考慮すると、分速六十メートルくらいだろうか。
――となると……。
(せいぜい六百メートルってところか。だが既に半分は過ぎているはず。つまり残りは三百メートル。……ハッ、楽勝だ)
こうやって数値に表すと、漠然とした不安が消える気がする。
データは希望にも絶望にもなり得るが、出口があるとわかっている今は希望の方だ。
このまま魔物と遭遇しなければ、五分後にはマリアのところに辿り着けるのだから。
――だがそう思ったのも束の間、俺は直感的に足を止めた。
前方から、何かが忍び寄る気配がする。
「とうとう来たか……」
俺は背中からユリシーズを下ろし、地面に横たえた。
グレンは逃げてもいいと言ったが、この狭い坑道で、迫りくる魔物から逃げきるなど不可能に近い。
たとえ逃げたとしても、今の右足の状態ではすぐに追いつかれるに決まっている。
つまり、倒す以外の選択肢は――ない。
「俺だって、やるときはやるんだよ」
俺は自身を鼓舞するように呟いて、聖剣を引き抜いた。
正面で構え、近づいてくる敵の様子を伺う。
そして数秒の後、暗闇から姿を現したのは、瘴気をたっぷり吸いこんだであろう巨大な蛇だった。
「……っ」
(――でかい)
長さは十メートル近く。大きな顎に鋭い牙、魔物特有の赤い瞳。
食事の後なのか、胴がいびつな形に盛り上がっている。
そのシルエットに、俺はどうしようもなく勘づいてしまった。
「……こいつ、まさか……」
(人間を……喰ってやがる……!)