転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
ここに入ったときから違和感は感じていた。
マリアは遺体が放置されていると言ったのに、実際は誰一人見当たらないことに。
俺はその理由が、ここが入口付近だからだと思っていた。
けれど違ったのだ。この蛇が、人間の身体を丸呑みにしていたからなのだ。
「――っ」
ああ……駄目だ。怖い。怖くて……足がすくんでしまう。
魔物は人を襲う。それはグレイウルフと戦って、よく理解していたはずなのに。
ユリシーズが隣にいないことが、自分一人で戦わなければならないことが、こんなにも恐ろしいことだったなんて……。
――でも……。
「……来いよ」
ユリシーズは俺を守ってくれた。だから今度は、俺がユリシーズを守る番だ。
それに、俺が手にしているのは聖剣。天下の大神官、サミュエルの聖剣だ。蛇ごときに負けるはずがない。
俺は大蛇を見据え、剣先を向ける。
「お前は俺が倒す。これは決定事項だ」
魔物に人間の言葉がわかるわけがない。まして蛇だ。犬や猫ではなく、蛇。
そんな奴に、何を言ったって無駄。そんなことは百も承知だ。
けれどそれでも、俺は言わずにはいられなかった。
殺さなければ、殺される。
そんな状況で、俺はそうでも言わなければ、今にも逃げ出したくなる気持ちを抑えてはいられなかった。
「殺《や》ってやる」
こいつは俺がここで殺す。
それ以外に、俺たちが生き延びる方法はないのだから。
俺は蛇と睨み合う。
そして数秒の後――蛇が動きだすと同時に――俺は一気に間合いへと踏み込んだ。