転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

(蛇の弱点は……どこだったか)

 正直俺は蛇に詳しいとは言えないし、好きか嫌いかと聞かれたら嫌いな方だ。
 蛇なんて気持ち悪いし、蛇を飼う奴の気がしれない。

 だが基本的な生態くらいは知っている。

 まず、目はそれほど良くない。視野は確か……片目六十度くらいだったはず。
 それでも獲物を正確に捕らえることができるのは……嗅覚……だったか、音感センサー、的なものが優れているからだ。
 
 そのセンサーの位置は……当然、顔。
 目と口の間の――鼻の穴に見えなくもない、アレだ。

「……狙うならあそこか」

 だが位置が悪い。
 あそこに傷を付けようと思ったら、頭の上によじ登るか、あるいは……跳ぶ? いや、流石にそれは難しい。

 ならば、どうする?


 ――俺は蛇の攻撃を防ぎつつ、なるべく冷静に思考を巡らせる。


 そう言えば、昨夜セシルが言っていた。

『相手が弱い魔物なら、聖剣で傷を付けるだけで倒せる。でも大型だったり上位種だとそう簡単にはいかない。そういうときは、刀身をできるだけ長い時間魔物に触れさせるんだ。別に急所である必要はないから、できる限り長くね。君が聖剣で、大型のグレイウルフを仕留めたときのように』

 多分あの言葉は、聖剣を突き立てろ、という意味だった。
 それは当然、この魔物に対しても有効なはず。 

 だが外側は硬くて難しい。となると……。


「やっぱ……またやるしかないか」


 グレンには怒られたが、あのときと同じことをもう一度やるしかない。
 それにこの方法なら、別にあの穴である必要はない。――蛇の口の中に、ぶっ刺せばいいだけの話。

 幸い蛇は、俺に襲い掛かる度に大きく口を開けてくれる。
 あとはセットポジション分の距離さえ稼げれば……。


「……よし、いくか」


 俺は前回と同じように、聖剣を逆手で握り直した。
 蛇の動きをかく乱するためその周囲を一周し、後方へと飛び退いて――狙いを、定める。

 蛇は動きを止めた俺を今度こそ仕留めようと、再び大きく口を開けた。そして、俺に飛び掛かる。


 俺の真正面にぽっかりと巨大な穴が開いた。
 けれど不思議と、恐怖は微塵も感じない。

 それどころか俺は、軽い興奮すら覚えていて――。

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