転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
――ああ、いいぞ、ベストポジションだ……!
そう思った次の瞬間には、俺の手を離れた聖剣が蛇の喉の奥へと突き刺さっていた。
ズブリ――と、肉を突き刺す鈍い音と共に、蛇の身体の内側に、刀身が埋まっていた。
それは、勝利の瞬間だった。
聖剣を突き立てられた蛇は、少しの間のたうち回り、息絶える。
その蛇を見下ろした俺は――。
「――ッ!」
刹那、俺の中に沸き上がったのは、とても懐かしい感覚。勝利を手にした興奮と快感。
それが、俺の全身の毛をぶわりと逆立てる。
「……ハハッ、……俺……やったぞ。俺……ちゃんと……」
一人で……倒せた。
俺が、一人で倒したのだ。
――だが。
「……ッ!」
勝利を噛みしめる間もなく、俺は再び何かの気配を感じ取り、振り向いた。
また魔物か? だが俺の右足ではもう……。とにかく、すぐに聖剣を回収して……。
そんな考えが頭を巡る。――が、どうしても足が地面から離れない。
(何だ、この感じ……)
魔物ではない――気がする。だが、何か、とても強い……。強い気配が……。
そこから一歩も動けないまま、けれど俺は、耳に全神経を集中させた。
すると聞こえてきたのは、一人分の足音だった。音の軽さからして、女性か、子供。
その予想通り、暗闇から姿を現したのは、十二、三歳の少年だった。
シルバーグレーの髪と瞳の、神官の装束を身にまとった、セシルも顔負けの美少年。
そいつはギリギリ灯りに照らされる位置で立ち止まり、どういうわけか拍手をし始めた。
「凄いね、お兄さん。本当に倒しちゃった。いつ助けに入ろうかなーと思って見てたんだけど、僕、必要なかったな」
そう言って、「残念」と続けたそいつの笑顔は、あまりにも無邪気なものだった。
あまりにも、悪意のない言葉だった。
(こいつ、今、俺を見ていたと言ったのか……? この暗闇の中で?)
しかも、助けに入れず「残念」……だと? ふざけてる。
だが本人は本気でそう思っているのだろう。"残念"だと。
その言葉に違和感を抱かせないほどの強さを、この子供から感じる。
(にしても……こいつ、誰なんだ?)
そう考えて、ハッとした。
この子供が着ているのは神官服だ。となると、思い当たるのは一人しかいない。