転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

 その言葉に、俺の全身に鳥肌が立つ。
 相手はまだ子供で、ただ無邪気なだけなのかもしれないが……どうにも気味が悪い。

 だが、きっと他意はないのだろう。
 俺は、「そうか。知らなかった」とだけ答え、ユリシーズを背負おうとした。
 けれど、止められる。

「このお兄さん、僕が背負うよ」と。

 その意味不明な発言に、俺は再び困惑した。

 確かにユリシーズは細見な方だが、それでも身長は百七十センチはある。
 対してロイドは百五十センチそこそこ。体格差は歴然だ。
 それにそもそも、ロイドがユリシーズを背負う理由がない。

 そんな考えが顔に出てしまったのだろう。
 ロイドは不満げに口をとがらせる。

「どうせ君も、僕が小さいからって馬鹿にするんでしょ。でも僕、こう見えて力持ちだし。それに、怪我してるでしょ、右足」
「……ッ」
「さっきの戦いずっと見てたから。わかるよ、それくらい」
「…………」

(まさか、本当にわかったって言うのか? この暗闇の中、俺が右足を庇って戦っていることに気付いたっていうのかよ)

 その恐ろしさに、俺はごくりと喉を鳴らす。
 すると、ロイドはわざとらしく息を吐いた。

「やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ。僕は光魔法師だよ? ほんの少しの月灯りさえあれば、真夜中だって関係ない。フクロウの目とおんなじだよ」
「…………なるほどな」

 確かに、そう言われれば納得がいく。けれど――。

「申し出はありがたいが、ユリシーズは俺が背負う」
「そう? まあ君がいいならいいけど。じゃあ僕は道案内してあげるね。それならいいでしょう?」
「…………」

 断ったところできっと付いてくるんだろう。
 そう思った俺は、内心複雑な気持ちを抱きながら、「ああ」と小さく頷いた。
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