転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
俺は、何か重要なことを見落としている気がする。
だがそれは、俺の前世の記憶に関わるものではない。
この胸騒ぎは……俺ではなく……きっと、アレクのものだ。
「アレク、どうしたの? 顔色悪いよ?」
不思議そうに俺を見つめるロイド。
俺はそんなロイドを置いて、走り出した。
「先行く」
「――えっ? なんで!?」
驚くロイドを残し、俺は一気に結界の壁を抜ける。
突然戻ってきた俺たちに驚くマリアに、俺は詰め寄った。
「今すぐユリシーズの傷を治してくれ!」と。
するとマリアは更に驚いた顔をしたが、すぐにユリシーズの治療に取り掛かってくれた。
リリアーナの聖魔法のようにはいかないが、少しずつ傷跡が塞がっていく。
そして傷がすっかり塞がった頃、ユリシーズは目を覚ました。
俺は、ぼんやりとした様子のユリシーズに、それでも強く問いかける。
「ユリシーズ、お前、何か知らないか……!? 今地下に蛇の魔物がいて、セシルとグレンなら十分倒せるってわかってるのに、どうしてかすごく嫌な予感がするんだ。でも、自分じゃ理由がわからない……!」
シナリオ通りなら何も問題はない。そのはずなのに――。
「何でもいいんだ! もし、何か思い当たることがあったら……!」
この胸騒ぎはアレクのもの。でも、その理由がわからない。
思い出すきっかけがほしい。どんなことでもいいから――。
俺はもう一度同じ内容を繰り返す。
すると――ユリシーズは何かを思い出したように、瞳を大きく見開いた。
「今……蛇って、言った……?」
「ああ、そうだ! 蛇の魔物だ!」
俺は頷く。
すると突然ユリシーズは身体を起こし、俺に向かって怒鳴りつけた。
「リリアーナは蛇が駄目なんだ! 本当に忘れたの!?」
「……っ!?」
「君が教えてくれたんだ! リリアーナは昔蛇に噛まれて、それ以来見るだけでも駄目だって! 発作を起こして呼吸困難になるって、君が……!」
「――ッ」
――ああ、そうだった。