転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
瞬間、俺の脳裏に走馬灯のように映し出される少年時代の記憶。
父親の狩りに付いていった先の森で、リリアーナと二人で遊んでいたときのこと。木の上から蛇が落ちてきて、まだ四歳だったリリアーナの腕に噛みついた。
幸い毒のない蛇で大事には至らなかったけれど、それ以来リリアーナは蛇だけは受け付けなくなったのだ。
家族でどこかの貴族の屋敷を訪れたときは、温室で蛇を飼っていて、それを目にしたリリアーナは発作を起こして意識を失った。
生きている蛇だけじゃない。剥製や蛇皮の製品など、蛇だとわかったらそれだけで駄目。
それ以来アレクは、リリアーナに絶対に蛇を見せないように細心の注意を払ってきた。
我が家の屋敷の庭にハーブが多く植わっているのも、蛇避けのため。
――こんなに大事なことを、どうして俺は忘れてしまっていたのだろう。
「……俺……今すぐ戻らないと」
俺の中のアレクの記憶が、今すぐ戻れと言っている。
消えてしまったアレクの心が……リリアーナを守れと命じている。
「……リリアーナを……守らないと……」
――だが、どうやって?
道は瓦礫で塞がれてしまった。つまり密室状態だ。
そんな場所に、どうやって入ればいい……?
俺は必死に頭を巡らせる。
グレンに叩き込まれた坑道の地図を……隅から隅まで思い出す。
そして、気が付いた。
(荷物運搬用のエレベーター……あれなら、地下に繋がってる……!)
――俺はユリシーズに踵を返し、再び結界をくぐる。
そして、リリアーナのいるであろう地下に向かうため、再び走り出した。