転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
20.いざ、地下道へ
――間に合え……!
俺は走った。
リリアーナを守らなければという一心で。
坑道の入口まで駆け戻り、その脇から頂上へ向かって延びる道を全力で駆け上がる。
貨物用エレベーターがあるのは、山のふもとと頂の丁度真ん中あたり。穴は動力源である水車のすぐ側から、地面真下に向かって掘られているはず。
その記憶通り、五分ほど登ったところで水車の姿が見えてきた。
(ああ、あと少しだ……!)
俺は更に速度を速める。
急がなければ、リリアーナが蛇の魔物を目にしてしまう。それだけは避けなければならない。
――が、そう思った次の瞬間、俺は足をもつれさせ、前のめりにすっ転んだ。
「――ッ!」
俺はなんとか受け身を取り、大きな怪我は免れる。
けれど――立ち上がろうとして、再び倒れた。
右足が動かない。さっきから痛みを感じないと思っていたが、どうやら負担をかけすぎたようだ。
痛みどころか、感覚自体が死んでいる。
「……ん、だよッ、こんなときに……!」
こんなことなら、マリアに治してもらえば良かった。
そう思ったが、今さら何を言っても遅い。
俺は残った左足で這うように立ち上がり、どうにか前に進もうとする。
けれど、やっぱりすぐに倒れてしまって……。
「――くそッ!!」
エレベーターは目の前だ。
なのに、俺はこんなところで何をやっている……!
早くリリアーナのところに行かなければならないのに。リリアーナを守らなければいけないのに――。
そもそも、どうして俺は気付かなかった。どうして忘れていた。
リリアーナが蛇を苦手とすることを、なぜ俺は思い出せなかったんだ……!
崩落で道が塞がれたとき、俺は確かに思い出した。
地下の魔物が蛇であることを、前世妹とプレイした記憶を、ちゃんと思い出していたのに。
あのときリリアーナが蛇を苦手とすることをセシルとグレンに伝えられていれば、きっと二人はリリアーナの視界に蛇が入らないようにしてくれたはずなのに。