転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

20.いざ、地下道へ


 ――間に合え……!


 俺は走った。
 リリアーナを守らなければという一心で。

 坑道の入口まで駆け戻り、その脇から頂上へ向かって延びる道を全力で駆け上がる。

 貨物用エレベーターがあるのは、山のふもとと(いただき)の丁度真ん中あたり。穴は動力源である水車のすぐ側から、地面真下に向かって掘られているはず。

 その記憶通り、五分ほど登ったところで水車の姿が見えてきた。

(ああ、あと少しだ……!)

 俺は更に速度を速める。
 急がなければ、リリアーナが蛇の魔物を目にしてしまう。それだけは避けなければならない。

 ――が、そう思った次の瞬間、俺は足をもつれさせ、前のめりにすっ転んだ。

「――ッ!」

 俺はなんとか受け身を取り、大きな怪我は免れる。
 けれど――立ち上がろうとして、再び倒れた。

 右足が動かない。さっきから痛みを感じないと思っていたが、どうやら負担をかけすぎたようだ。 
 痛みどころか、感覚自体が死んでいる。

「……ん、だよッ、こんなときに……!」

 こんなことなら、マリアに治してもらえば良かった。

 そう思ったが、今さら何を言っても遅い。
 俺は残った左足で這うように立ち上がり、どうにか前に進もうとする。

 けれど、やっぱりすぐに倒れてしまって……。

「――くそッ!!」

 エレベーターは目の前だ。
 なのに、俺はこんなところで何をやっている……!

 早くリリアーナのところに行かなければならないのに。リリアーナを守らなければいけないのに――。

 そもそも、どうして俺は気付かなかった。どうして忘れていた。
 リリアーナが蛇を苦手とすることを、なぜ俺は思い出せなかったんだ……!

 崩落で道が塞がれたとき、俺は確かに思い出した。
 地下の魔物が蛇であることを、前世妹とプレイした記憶を、ちゃんと思い出していたのに。
 あのときリリアーナが蛇を苦手とすることをセシルとグレンに伝えられていれば、きっと二人はリリアーナの視界に蛇が入らないようにしてくれたはずなのに。
< 95 / 148 >

この作品をシェア

pagetop