転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜
「じゃあ動かすよー」
その軽い一声を合図に、ロイドは外側でレバーを操作する。
すると二秒ほど遅れて、ガコンッという音と大きな揺れと共に、エレベーターが動き出した。
それとほぼ同時に、ロイドが籠に飛び込んでくる。――そのフォームと着地は、うっかり見惚れそうになるほど綺麗だった。
「お前……運動神経いいんだな。神官は皆そうなのか?」
思わず尋ねると、「まさか」とケラケラ笑い始めるロイド。
「そんなわけないでしょ、騎士じゃあるまいし。マリアなんて二日に一度は何もないところでつまづいてるよ。僕はただ、魔物と戦うために身体を鍛えてるってだけ」
「……本当に好きなんだな、魔物退治」
「うん。そのためだけに、僕は神官になったから」
「…………」
そう言ったロイドの横顔はとても子供には見えなくて、俺はそれ以上何も言えなくなった。
――にしても、下に降りれば降りるほど、視界が悪くなっていく。
灯りが少ないのもあるが、この暗さは瘴気が濃いせいだろう。
俺が不意にロイドの様子を伺うと、ロイドは嬉々とした表情を浮かべていた。
瞳孔は猫の目のように開き、唇は夜空に浮かぶ三日月のごとく弧を描く。
まるで夜闇の中、獲物に狙いを定めるフクロウのように――。
(こいつには……いったい何が見えているんだ……?)
俺はゴクリと喉を鳴らす。
――その数秒後、俺たちは無事、地下五階へと降り立った。