転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹のためにラスボスポジション返上します〜

21.守りたいもの

 エレベーターが止まり、俺はロイドの手を借りて地下五階の地を踏んだ。

 灯りはほぼないに等しい。エレベーター上部の穴から差す自然光がなければ、何も見えないと言っていいほどの暗さだ。 

 俺はその暗さの理由を、揺れで灯りが消えたせいかと思った。が、どうもそうではないようである。
 おそらくだが、灯りは元から点いていないのだ。

 きっと人の出入りが少ないのだろう。
 地面は(なら)されていないし、滑車用の線路も敷かれていない。天井を支える(はり)や柱も見当たらず、掘削(くっさく)しっぱなしのようだった。


(――にしても、本当に暗いな。夜の森の方がまだマシだ)

 正直、俺には隣に立つロイドの表情がやっと読める程度だ。
 けれど、ロイドにはちゃんと周りが見えているようで……。

 暗闇の中で、ロイドの両目だけが爛々と光を帯びている。

 いったいどれほど先まで見えているのだろうか。
 ロイドは暗闇の先を見つめ、微かに笑みを浮かべた。

「凄い瘴気だ。ゾクゾクする」
「――っ」

 “早く殺したい”――ロイドの目が、そう言っているように見えた。

 ゴクリと唾を飲み込む俺の前で、ロイドが腰を落とす。
「さあ、乗って」と。

「……ああ」

 俺はロイドに言われるがままその首に手を回そうとして――けれど、躊躇(ためら)った。
 どういうわけか、地上にいるときよりもロイドの背中が小さく見えたからだ。

「……?」

(いや、違う。小さくなった気がするんじゃない。実際、こいつは小さいんだ)

 そもそも、冷静に考えてみれば俺はロイドの倍近い体重があるはず。
 それなのに、俺はこんな小さな背中に背負われて……恥ずかしくないのか?

 不意に、俺の中にそんな気持ちが芽生える。

 するとロイドは、なかなか背中に乗らない俺に痺れをきらしたのか、首を回しこちらを見上げた。

「どうしたの? 乗らないの?」
「いや、何ていうか……その、俺、重くないかな、って?」
「はぁ?」
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