人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
「そうだ…」
何だか、無性に面白くなってきて…。
「分かりました、私…死んできます!」
「…は?」
「今なら、逝けそう!」
「は!?」
私の体は勝手に動き出し、面接室を飛び出した。
「え、黒磯さん!? 待てよコラ!!!」
叫びながら後ろを追いかけてくる日比野先生を無視して、社内を走り抜ける。
走りながら凄く清々しい気持ちになってきて、湧き上がる感情を言葉に出してみたくなった。
「私、プログラミング…大好きだった!」
「黒磯さん…待てっ!!!」
「プログラマーになれたこと、本当に嬉しかったんだ!」
「黒磯っ!!!」
「私が携わったパズルゲーム、評価4.6だったんだよ!」
「ちょ、誰か!! その人止めて!!!」
「思い出した。私、ユーザーの皆さんにゲームを楽しんで頂けるのが、やり甲斐だった…!!」
「黒磯由香里っ!!!!」
廊下を歩く沢山の人をスルーして、私は建物から外に出る。
外に出ると、目の前には片側3車線の大通り。
その車通りの多さを見て、また気持ちが高揚した。
「…来世でも、絶対プログラマーになる!!!」
そう叫びながら
一瞬立ち止まったのが…失敗だった。
「黒磯ぉ!!!」
ずっと私を追いかけて来ていた日比野先生。
立ち止まった隙に、先生は私に向かって飛び込んできた。
「っ!!!」
「………クソっ…やっと捕まえた……」
先生が飛び込んできた勢いで、アスファルトの上に倒れこんでしまった。
そんな私の上に先生は覆い被さり、拘束される。
「ったく!!!! 馬鹿なことしてんじゃねぇよ!!!!」
社内から沢山の人が走って、私たちの元に駆け寄ってくる。
状況を理解した人たちは先生と同じように、私の体を取り押さえた。
「だって…先生が死んでも良いって…」
「良いとは一言も言ってねぇよ!! お前が死にたいっていうから尊重しただけって言ってんだろ!!」
「…………分かんない。日比野先生、嫌い。大嫌い」
「……んだよ突然…。良いよ、嫌いでも。好きにしろよ。ただもう、こんな馬鹿なことは二度とするな。絶対だ!!!!」
「……」
叫ぶ日比野先生は、眉間に皺を寄せて私の右手を握った。
手から伝わる、先生の体温。
大嫌いな人なのに、久しぶりに感じる人肌に…涙が止まらなくなった。
何か月ぶりかの涙。
まだ私にも、涙を流す力が残っていたのだと…少し安心した。
その後、私は会社から休職命令が出た。
そしてそのまま…日比野先生が勤務している総合病院に、強制的に入院をさせられたのだった…。