人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
会社の人
病院では呆然と過ごし、窓の外を眺める毎日。
そんな私は、入院してそろそろ1か月経つらしい。
この入院期間中、日比野先生は隙間時間を見つけては、私の病室に足を運んでくれた。
その都度、お菓子を持ってきては、私に様々な話をしてくれる。
「黒磯さん、今日はチーズケーキを持ってきたよ」
「……」
「ここのケーキ屋さん美味しいんだ。知ってる?」
「……」
そう言いながら箱を開けて、チーズケーキを取り出す先生。
紙皿に乗せて、そっと私の前に差し出してくれた。
「食べさせてあげようか?」
「………」
「……そうしよっと」
「………」
フォークですくって、私の口元にやってくるチーズケーキ。
「……」
今日も食べたい欲の勝ち。
先生が持っているフォークに、勢いよく食らいついた。
「おぉ、食べた」
「……」
濃厚なチーズの味。
…不思議。
ケーキなのに。シュワシュワと溶けていくような感覚がする。
「……美味しい」
「…そう、良かった」
素直に感情が言葉に出た。
美味しい物に対して、美味しいと言える。
今の私にとって、とても凄いことだ。
「また、買ってくるね」
そんな私の言葉を聞いた先生は、優しく微笑みながら、そっと頭を撫でてくれた…。