人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。

1人と1匹



日比野先生、お仕事。


先生の家に独り。
…いや、ジャスティスと一緒。

1人と1匹。


「…………」


入院中、先生から貰った日めくりカレンダーをめくる。

今日は4月18日、木曜日。発明の日。



先生の家に来て暫くは落ち着かず、そわそわとしながら呆然と過ごしていたけれど。

ここに来て1週間。
大分落ち着いて、生活に余裕が出てきた。


「……」


ソファに座って、呆然と外を眺める。



病院とは違う景色。

それにまた、新鮮さを覚える。





そういえば、返却されたスマホ。
入院期間中は病院で預かってくれていたみたいで、約半年ぶりに再会をした。

返却されてから、まだメモ帳しか使用していない。
それにふと気付き、改めて中身を見てみた。


「……」


凄い。
半年分の溜まった通知が数百件入ってきていたようだ…………。


まぁもう用は無いから良いけど。
そう思い、通知を全て消す。



「……」



…何だか、モヤっとする。



このスマホ、もう要らないかも。
あの頃の嫌な記憶が蘇ってくる感覚がする。


新しくまっさらなスマホ、用意しようかな…。



「………」



隣に居てくれるジャスティスを撫でながら思う。
私、1人でアパートに戻っていたら…どうなっていたのだろう。





病院を出てここに来る前、先生と一緒にアパートへ寄った。


当時限界状態だった私の部屋は、泥棒でも入ったかのような大惨事。
ゴミこそちゃんと処理していたものの、散らかり、物で溢れ返っていた部屋は、とてもすぐに住める状況では無かった。


症状が改善したからこそ分かる。
当時の状況の悪さに、目も当てられない。


そう思いながら服や貴重品など、最低限の物だけを鞄に詰めて、アパートを後にしたのだった。



「…………」





あ。
パズルゲーム。

今、ふと思い出した。





私が製作に携わった、パズルゲーム。
現在どうなっているかな。



再度スマホを手に取り、アプリを開いてみた。



美男美女のキャラクターが出てくるパズルゲームで、パズルをすることによって物語が進み、育成アイテムや装飾アイテムをゲットすることができる。


プログラマーとしての私が、一番力を注いだゲームだ。


緊急メンテも多くて大変だったけれど、ユーザー評価は4.6もあり、私の中では最高の出来栄えだった。




「………」




そんなアプリの画面。
スマホには、見覚えのない画面が表示された。




目に飛び込んでくる……本能的に見たくないと感じる文字。





【サービスを終了しました】



「……………」




見なければ、良かった。




表示されているこの文字は、まるで過去の私を否定しているかのように感じる。

胸が痛くて、苦しくて、吐きそう。





休職して半年と少し。

プログラマーとして残した結果は、私がいない間にこの世から消し去られていた。





< 28 / 44 >

この作品をシェア

pagetop