人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
「黒磯さん…死なせない。絶対に死なせない。二度と死にたいって思わせないって言ったよね。辛くて苦しい思いをするくらいなら、そんなことをする会社なんて辞めてしまおう。休職で籍を置いておく必要は無い」
「………」
「僕が君を守る。僕が君を一生養う。僕と一緒に居て良かったって絶対に思わせるから。絶対。だから辞めよう。これは、君を守る為の選択だ」
「………」
真剣な先生の言葉に涙が止まらない。
唇を噛み締めながらも、優しく私を見つめる瞳に、心臓が跳ねた。
「……どうして…先生はそこまで私に気を掛けてくれるのですか…」
ふいに声となった言葉。
そのことに自分でも驚いた。
…………声が、出る。
「先生、優しすぎます。そんなこと言われたら、より甘えてしまいます。死にたい私は、先生の重荷にしかなりません…」
思いが声になる。
久しぶりのその感覚に、心底驚いた。
先生も目を見開き、驚いた表情をしている。
「……喋れる……」
そんな私の呟きに先生はふっと笑い、私の頬に両手を添えた。
優しく微笑みかけてくれながら、ゆっくりと口を開く。
「…ねぇ黒磯さん、聞いて。…僕は君が好きだ。大好きで、心から君を支えたいし、どんな君も愛したいと常に思っている」
「……」
「知ってる? 実はこの前の退院の日、黒磯さんが初めて産業医面接を受けた日からちょうど1年だったんだ。僕はこの1年間、色んな君の姿を見てきた。愛おしくて、大切にしたい。そう思えるくらい、僕の中の君の存在が大きかったし、君のことを心の底から愛したいと思った。だから、君を守りたいし、死にたいって思わせたくないし、人生諦めなくて良かったって…僕の手で思わせたい」
「………」
「気に掛けているとか。優しくしているとか。そんな単純なことではないんだよ。僕は君のことが好きで、心の底から愛してる。全然重荷だとは思わないし、仕事のことを思い、君が死にたいと願うなら…。そんな会社なんか辞めて、僕と結婚しよう。大丈夫、僕は君を必ず幸せにすると…今ここで誓うよ」
「……先生」
ここで初めて先生と目を合わせた。
優しい瞳に、また涙が零れる。
…声が、出るようになった。
思いを言葉に出来るようになった。
そして…日比野先生が言ってくれた、愛の言葉。
嬉しさを初めとした色んな感情が入り混じって、別の意味で胸が痛い。
「日比野先生…嬉しいです。私も、先生のことが…好きです」
消え行く声でそう呟くと、先生は微笑んでそっとキスをしてくれた。
やっと言葉にできた思い。
自分の声で思いを届けられる喜びを身に染みて感じた―――……。