人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
退職
会社が休職者に退職勧奨をすることはできないが、休職者自身が会社に退職の申し入れをすることは問題無いらしい。
ある日の平日。
産業医による職場巡視があるという日比野先生に付いて、私も一緒に会社を訪れた。
久しぶりの会社。
自殺未遂を図った…玄関前の道路………。
「……」
「黒磯さん、大丈夫?」
「………」
また、声が出ない。
さっきまでは普通に喋れていたのに。
代わりに動悸が凄い。
【先生、声が出ません】
スマホに打った文字を先生に見せると、眉間に皺を寄せて首を傾げた。
「…場面性、緘黙症…かな」
「……」
克服できたと思っていたけれど、会社はまた例外ということだろう。
「…大丈夫。僕が君を守る」
「……」
小さく頷くと、先生は私の頭を優しくポンポンと叩いて、会社の玄関に向かって歩き始めた。
受付に向かうと、真っ先に応接室に通される。
先生の職場巡視より私の話が先らしい。
「システム部次長の原川と総務部の加賀が参ります。お待ち下さい」
「……」
一応まだ社員なのに。
物凄く他人行儀な受付。
何だか、少しだけ不穏な気がした。