人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
ガチャッ
「お待たせしました、日比野先生。黒磯は…久しぶりだね」
「……」
システム部の原川次長と、総務部の加賀さん。
2人は私に座るよう促してから、自らも椅子に座った。
「さて。早速だけど黒磯…。この度は本当に大変だったと思う。…日比野先生から粗方話は聞いているよ。だから…詳しいことは聞かない。こちらからも頼む。このまま退職してくれ」
「………」
原川次長の言葉に、涙が出そうになった。
引き留めはしないんだ…って思っていると、原川次長は言葉を継ぐ。
「黒磯には約10年間、良くうちで頑張ってくれた。実績もあるし、社内評価も高い。けれど…悪い。そこまでなんだ。…悪いけど、プログラマーなんて替えはいくらでもいる。黒磯である必要は…無いんだ」
そんな原川次長の言葉に、加賀さんは目を伏せた。
…例えそれが事実でも、そんな風に言わなくて良いのに…。
私はスマホを取り出し、メモ帳を開いた。
そして文字を入力して原川次長に見せる。
【1つ教えてください。私が携わったパズルゲームをサービス終了させた理由は何ですか】
その文字を読んだ原川次長は、苦虫を嚙み潰したような表情をして…ゆっくりと口を開いた…。
「…ユーザー評価はそこそこ高かったけれど。クオリティの低かったあのゲーム、引き継ぐ人がいなかった。大体、違うピース同士をくっつけても消えるなんて、パズルゲームとしては最大の失態だろう…! それをユーザーに提供した時点で、このゲームは終わっていたんだよ!」
「………」
その言葉に耐えられず、涙が零れ始めた。
今の感情を表す言葉が見つからない。
ただひたすら、涙が零れるだけ…。
俯き肩を震わせると、後ろから声が飛んできた。
「……おい、原川次長」
そんな様子を、後ろで突っ立って見ていた日比野先生。
壁を1回殴って、大股で次長のところに向かった。
「さっきから聞いてりゃ、何だよそれ。それが苦しんだ人に掛ける言葉かよ」
力強い先生の口調。
それに対抗して、原川次長も声を上げる。
「良く言いますね、日比野先生。貴方こそ、面接者に対してどれだけ酷い言葉を掛けてきたのですか。死ねなんて言う医者が居ますか、普通」
「…死ねなんて一言も言ったことねぇよ。勘違いするな。該当者が『生きるのを止めたい』っていうから、僕はその意見を尊重して『じゃあ生きるのを止めたら』って言っているだけだ」
「同じことです」
「同じじゃねぇよ」
話にならん。と言葉を吐き捨て、日比野先生は私の腕を掴んだ。