人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。


「ただいま、黒磯さん」
「わっ!」


プログラミングに集中し過ぎて気が付かなかった…。
日比野先生が帰って来ていた。


「先生、おかえりなさい。すみません、集中し過ぎていました」
「集中できるのは良いことだよ。何してたの?」
「あ、これ…。ゲームを作っていました」


そう言って先生にパソコンの画面を見てもらった。

まだ完成していないけれど、ジャンプアクションゲームを作っている。
ひたすら横に走り続けるキャラをタイミング良くジャンプさせて、ゴールを目指す単純なゲームだ。

今はまだ、ひたすらキャラが走るだけ。
ストップさせるまで、永遠に走り続ける。

でも先生はそれを見て、喜びの声を上げてくれた。


「凄いな…。僕はプログラミングのこと分からないけれど、動いているの見ると感動する」
「これ完成したら、プレイしてくれますか?」
「勿論。…楽しみだ」


その言葉に微笑むと、先生も微笑んで私の頭を撫でてくれた。



「…ねぇ、黒磯さん。ちょっと話聞いてくれる?」
「はい」


改まってどうしたんだろう。
そう思いながら、先生に手を引っ張られてソファに向かう。


「座って」
「はい…」


私をソファに座らせ、鞄の中から1枚の紙と紺色の箱を取り出す。

そして私の前で片膝をついて床に座り込み、紺色の箱を開けながら、私の目を見つめて口を開いた。


「黒磯由香里さん。僕と結婚して下さい。僕は君を、必ず幸せにします」
「……」


紺色の箱の中身は、大きなダイヤモンドが付いた指輪だった。

「……うそ」

言葉よりも先に涙が零れる。

嬉しい…。
けれどそれ以上に。

本当に、日比野先生の結婚相手は私で良いのかな。
そんな不安が過ぎり、言葉が出てこない。




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