人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
「……ふっ」
ポロポロと止まらない私の涙を先生は指で拭って、小さく微笑んだ。
「何か、要らないこと考えてない?」
「…え」
「僕は由香里が良い。これ以上、何か悩むことがある? それとも僕のことが嫌い?」
「嫌いなんて、そんなことありません」
「なら素直になってよ」
そう言いながら指輪を手に取り、私の左手の薬指に嵌めてくれた。
いつの間にサイズを測ったのだろう…。
その指輪は私の指にピッタリだった。
「うん…良く似合う」
「……ありがとうございます。あの、日比野先生。……不束者ですが、宜しくお願い致します」
先生は吹き出すように笑い、私を抱き上げた。
「ふふっ。こちらこそお願いします」
目線が同じになった私と先生。
どちらからともなく顔を近づけて、そっとキスをした。
「…由香里、敬語と先生呼びを止めようね」
「え」
「僕も黒磯さんって呼ぶのは、今日でおしまい」
そう言ってまたキスをする。
「由香里、愛してる」
「…私も……」
「……」
「……」
微笑んでいる先生の名前を呼ぶのが照れくさくて、言葉を継げない。
先生は少しだけ怪訝そうな顔をして口を開いた。
「……由香里。僕、日比野玲司と言います」
「…すみません、知っています。玲司さん……愛しています」
何だかとても気恥ずかしい。
先生から目線を逸らしその名前を呼ぶと、更に微笑んだ先生に力強く抱き締められた…。