人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
家族
先生……玲司さんが持って帰ってきた1枚の紙は婚姻届だった。
やる事が早い玲司さんは既に記入を済ませており、あとは私が記入すれば提出できるという状態にされていた。
そしてその翌日。
実は休みを取っていると、突然カミングアウトをした玲司さん。
そんな彼に連れられて役所を訪れて婚姻届を提出し、晴れて私は…日比野由香里となった。
「……漢字、6文字…」
「分かってたことだけど、長くなったね。名前」
「長いですね」
「敬語」
「あ、はい」
「……」
抜けない敬語に苦戦しつつ、玲司さんと夫婦という事実がまた気恥ずかしい。
しかし…日比野由香里か。
……字面が固いことだけが気になる。
「ねぇ由香里、このままデートする?」
「…え?」
「デートというものを、まだしてないからさ」
「……」
確かに。
玲司さんとどこかに遊びに行くってことをしていない。
突然の提案に驚いたが、嬉しくて笑顔を浮かべる。
「デート…する」
そう返事すると玲司さんも笑顔になり、優しく私の手を握ってくれた。
「行こう。今日はいっぱい遊ぼう」
「…うん!」
玲司さんの、眩しい笑顔。
その笑顔が素敵で、愛おしくて。
繋いでくれている腕に寄り添いながら歩いた。