人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。


総務部から、1通の手紙が手元に届いた。


【産業医面接の希望調査】


「…産業医?」



中身は封筒に書かれている通り、産業医との面接の希望調査をするものだった。


月残業時間が100時間超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申し出を受けて、医師の面接指導を行わなければいけないらしい。


事業者の義務…か。

うちの産業医は、近くの総合病院に勤務している精神科医、日比野(ひびの)玲司(れいじ)という。



名前は知っていた。
何せ、社内では有名人だったから。



日比野先生は精神科医なのに、冷たくて思いやりがないことで有名。



辛くて苦しくて病んでいた元同僚が居た。

その人はとっくの昔に退職したけれど。
退職前、日比野先生の面接を受けて…大泣きをしていた。



『生きるのが辛い、消えても良い』

そう伝えると、日比野先生は

『そう。じゃあ生きるのを止めたら?』

と答えたらしい。



社内では、超有名な話だ。



日比野先生。別称、冷酷な産業医。



故に、望んで面接を受けようとする社員は…ほぼゼロ。





しかし…これまでも月100時間を超すことなんて何度もあった。

けれど、総務部からこのような手紙が来るのは初めてだ。



「…あれか、総務から見て、私に疲労の蓄積が認められなかったのかな」


…知らんけど。


「……」



私はその手紙を机の引き出しに放り込んだ。




…知らん。
面接、いらないんじゃない?



私より大変な人なんていっぱいるし。
私はまだ面接を受けるほどではないと思う。




まぁそれも…知らんけど。



そう思い、再びパソコンの画面に向き合った。



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