人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。


「……」


チラッと横目で、隣に居る玲司さんの顔を見る。



“冷酷な産業医、日比野玲司”



確かに最初は冷酷だった。


『生気が無い、廃人』
『生きるのを止めたら?』
『人生楽しくなさそう』


噂通りの、冷たくて酷い人。

あの時、死んで今世も来世もその先も呪ってやると、心に決めたもんね。



でも、入院してからは別人のようになった。


美味しいお菓子。
日めくりカレンダー。
浮かれた日比野サンタ。
オルゴール。

そして、私の心を救ってくれた。
沢山の…愛の言葉。



生きる意味を見出してくれた、命の恩人。



冷酷なんて呼ばれていたのが嘘みたいに、溢れんばかりの愛を注いでくれた。




先生…。


日比野先生…。



「……日比野先生…」
「…ん? どうした由香里」
「先生。玲司さんはやっぱり、日比野先生です」
「何だそれ…。どういうことか分からんが…。言っとくけど、君も日比野だからね」
「……」


忘れていた。

私、日比野由香里になったんだ。


「…慣れるまで、時間が掛かりそう」
「大丈夫、日比野って苗字を沢山実感させてあげるから」
「どうやって?」
「それは今から考える」
「…ふふっ」




愛おしい玲司さん。


玲司さんに向かって優しく微笑むと、玲司さんもまた、微笑んでくれた。



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