人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
大切な人 side 日比野玲司
黒磯由香里。31歳。
過労による、精神疲労。
感情消失。
情緒不安定。
自殺未遂。
緘黙症。
好きな仕事に殺されかけた、真面目な人。
…別に、同情したわけではない。
ただ、どうしても彼女のことが気になった。
面接を重ねるに連れ、彼女のことを守りたいと思い始めた。
由香里の自殺未遂の日。
今でも思い出すだけで…身が震え上がる。
初めての経験だった。
患者が本当に自殺しようとするなんて。
あの会社の社員を数十名、産業医面接を行ってきた。
みんな口を揃えて「死にたい」「生きるのを止めたい」と言うが、本当に自殺しようとした人はゼロ。
それは勿論、あの会社に限らず他社でもそう。
由香里だけだ。
死のうとした人。
……何度も言うが、同情をしたわけではない。
彼女を守りたい。
率直にそう思った。
ただ、それだけ。