人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。


「由香里、ジャスティス! ただいま」
「玲司さん、おかえりなさい」
「にゃーん!」


リビングに入ると、何やら焦げたような匂いが鼻についた。


「ん、焦げ?」
「…あっ玲司さん、ごめんなさい!! 玉子焼き作ったんですけど…焦げちゃいました」
「………おぉこれは…また…」


皿の上に乗っている、玉子焼き……だったもの?


…炭化してる?


「本当にごめんなさい…。私、玲司さんのように上手に作れません…」



相変わらず敬語が抜けない由香里。
それはさておき、真っ黒焦げでも…由香里が料理をしようとしてくれていることが嬉しくて、思わず頬が緩む。



働いていた頃は相次ぐ残業で、自炊なんてする時間が無かったと言っていた。
…まぁ、月100時間も残業をしていれば…当然だと思う。



「…由香里、その気持ちが嬉しい。作ろうとしてくれてありがとう」
「もっと上手になれるように頑張ります…」
「一緒に作ろうよ。由香里が一人で悪戦苦闘する必要は無い。一緒の方が、楽しいよ」


そう言うと、由香里は凄く嬉しそうに微笑んでくれた。




…この笑顔。


由香里の笑顔に、涙が込み上げる。




辛かった時を知っているから。

笑っている由香里の姿が、眩しくて…輝かしくて…素敵に映る。




「…さて、早速何か作ろう。何にする?」
「玉子焼き!」
「リベンジ?」
「はい! 私、玲司さんの玉子焼きが好きです。頑張って覚えて、私も作れるようになります!」
「……」



…また、この人は………。


ガッツポーズをして意気込んでいる由香里を、思わず抱き締めた。



「玲司さん?」
「…作ろう。2人力を合わせたら、より美味しく作れるはずさ」



…目に涙が滲む。


潤んだ目を見られないようにこっそり拭い、由香里の頭を撫でた。


「………」


愛おしい。


「玲司さん、卵は何個ですか?」


僕の大切な人。


「…由香里」
「はい?」
「愛してる…」
「…え!?」


驚いている由香里をまた背後から抱き締めて、もう一度囁く。


「愛してる」
「…え、っと…私も、愛しています………あの、卵…何個ですか?」
「2個」




由香里を抱き締めたまま、その肩に顔を埋める。



元気になった彼女の体温を体中で感じながら

今ここにある大切な命を一生懸けて守り抜くと、改めて心に誓った…。












人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。  終


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